近年、パソコンやスマートフォンの普及が広がり、電子メールはもちろん社内でのLINE等のメッセンジャーやslack等のSNSの活用、smartHR等のHRテクノロジーやクラウドサイン等の電子署名を導入する企業が急増しています。以前より、扶養控除申告書やマイナンバーの収集は電子的に回収ができていたにも関わらず、紙での労働条件通知書の交付については従来の法律に縛られたままでした。時代に即しておらず、社員も人事部も非効率であったことから規制緩和を求める声が高まり、労働基準法施行規則が改正され2019年4月より電子メール等の電磁的方法による交付が可能となりました。
労働条件通知書は労働条件を雇う側が雇われる側に通知するための書面です。会社側が労働者側に交付するだけにとどまり、署名などは特に必要としません。
労働基準法第15条第1項に「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と記載されておりますが、この労働基準法のルールに基づき作成されるのが労働条件通知書です。
この労働条件通知書は必ず労働者に明示しなければなりません。
一方、雇用契約書は、雇う側と雇われる側の間で雇用契約の内容についてお互いに合意がなされたことを証明する書面の事を言います。双方が署名ないし記名押印を行います。
非常に重要な書類のように思えるかもしれませんが、実はこの雇用契約書の取り交わしは法律で義務づけられているわけではありません。決まった形式などもなく、双方が同意すれば口約束でも雇用契約は成立します。
ただ、後々のトラブル防止などの観点から、労働条件通知書で明示する項目を網羅した雇用契約書を取り交わした方が労働者側、使用者側の双方にとって好ましく、締結する企業は非常に多いです。
法的には「労働契約の内容について出来る限り書面により確認するものとする」との記載はありますが、あくまで努力義務なので雇用契約書を取り交わしていなくても罰則はありません。また、今回の法改正では書面による「労働条件の明示」の規制緩和であり、雇用契約書の電子締結とは別であることに注意が必要です。
労働条件通知書の交付は電子メールやFAX以外でもOKです。LINEやslack、メッセンジャーなどのSNSメッセージ機能での労働条件通知書を交付も認めるとされています。但し、あくまで「労働条件通知書」の取扱いであり、クラウドサインでの雇用契約書の電子締結を強制されたり、HRテクノロジーで強制的に「労働条件通知書の電子化に同意する」ボタンを押さなければならないような場合、後で説明する「労働者の希望がある」と見なすことが難しいと思われるので、導入は慎重になった方がよいと思われます。
電子メールやLINEで労働条件通知書を交付出来るとなれば受け取る側にとっても気軽でメリットが大きいようにも思えます。ただ、何らかのトラブルでメールが受信できなかったり、迷惑メールフォルダに振り分けられてしまうことも考えられるため、何らかの形で労働者の元にしっかりと届いたか確認を取る必要もあります。「このメールを受け取ったらご連絡を下さい」といった一文を加えておくといいと思います。
まず、労働条件通知書の交付方法は「労働者の希望」を聞く必要があります。会社が手間を省略するために、一方的にメールを交付するような運用をしてはいけません。「労働条件の通知は書面を希望されますか?それとも電子メールでの送付を希望されますか?」などと言った形で確認を取りましょう。労働者側が電子メールでの交付を希望した場合のみ電子メールでの交付が可能となります(FAXでの交付も可能となりました)。
労働者のブログやホームページなど第三者に閲覧をさせることを目的としている場所への書き込みによる明示は禁止となっています。また、GoogleDrive等の共有フォルダでの明示ももちろんできませんし、仮に労働者個人のみに権限を与えて閲覧できる状態にしていたとしてもセキュリティの面から問題があると思われます。
ショートメールによる明示も法的には可能となっていますが、印刷が困難で、ファイルが添付できない上に、文字数制限もあります。LINEでの明示も同様ですが、細切れで労働条件を明示することは後で確認もしづらく双方にとってデメリットが多いので避けた方がいいでしょう。出来れば労働者側が印刷や保存をしやすい方法の方が望ましいので、PDFなどの添付ファイルでの送付をお勧めします。
労働契約の締結の際に明示を怠ってしまったり、労働者が電子メール以外での明示を希望していたにも関わらず電子メールで明示をした場合などは法令違反となり、最高で30万円以下の罰金となる場合がありますので注意して下さい。
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