AI活用・DX
2026.07.21
AIで勤怠システムは作れるのか――専用の勤怠システムはもう不要?
勤怠システムらしいものは、思ったより簡単に作れる
■画面と計算式を作るところまでは速い

生成AIを使うと、勤怠システムらしいものを作ること自体は、以前よりかなり簡単になりました。

出勤・退勤を入力する。休憩時間を引く。1日の勤務時間を計算する。残業時間を表示する。月ごとに集計する。以前ならプログラミングの知識が必要だった処理でも、AIと会話しながらコードを書かせれば、かなり短時間で形になります。

当事務所でも、顧問先の期限をSlackに通知する仕組みなど、Google Apps Scriptを使った業務ツールをAIと一緒に作っています(当事務所の生成AI活用の全体像はこちら)。実際に動くものができると、「これなら勤怠システムも自分たちで作れるのではないか」と思えてきます。

実際、作ることはできるはずです。ただ、勤怠について考え始めると、コードを書くことより、その前に決めなければならないことの方がずっと多いことに気付きます。

■普通の日だけなら、ほとんど問題は出ない

たとえば9時から18時まで働き、休憩1時間なら実労働8時間。この程度の計算なら、AIに作らせても難しくありません。

問題は、少し勤務パターンを変えたときです。午前半休を取って20時まで働いたらどうするのか。途中で1時間抜けたらどうするのか。土曜日に働いた週に祝日があったらどうするのか。振替休日が翌週になったらどうするのか。

「勤怠システム設定で見落としやすいポイント――社労士が実務で確認する視点」でも書いたとおり、勤怠の設定は普通の日が合っているだけでは足りません。AIで作る場合も同じです。画面を作るより、「このケースでは何時間として扱うのか」を決める方が難しい。ここで、勤怠システムを自作する話は一気に重くなります。

「法律に合うように作って」では、仕様にならない
■AIが法律を全部知っていても決まらない

では、「労働基準法に適合する勤怠システムを作って」と頼めばよいのか。ここが、思っているより難しいところです。

仮にAIが労働法を完全に理解し、コードも一切間違えないとしても、それだけではその会社の勤怠システムは完成しません。労働基準法が決めているのは最低基準だからです。

所定労働時間を7時間にするのか8時間にするのか。7時間を超えた法定内残業にも25%を付けるのか。所定休日に働いた場合に会社として多めに払うのか。固定残業代には何を含めるのか。法律は、そこまで決めてくれません。

欠勤控除もそうです。法律にあるのは「働かなかった時間の賃金は払わなくてよい」という原則だけで、計算方法の定めはありません。その月の所定労働日数で割るのか、年間の平均で割るのかは会社が決めることで、選び方によっては、ほとんど出勤していない月の給与がマイナスになる計算も起こり得ます。

さらに勤怠の設定では、給与だけでなく、36協定の管理、休日の区分、休暇なども関係します。「合法的に作ること」と「その会社の勤怠を作ること」は別なのです。

■就業規則を読み込ませれば終わるわけでもない

そこで次に考えるのが、就業規則や賃金規程をAIに読ませる方法です。これはかなり使えます。所定労働時間、休日、割増率、欠勤控除など、規程に書かれている内容を探して整理するのはAIが得意です。

ただ、実際の会社では規程だけで決まらないことがあります。「規程にはこう書いてあるけれど、給与は昔から別の方法で払っている」「なぜこの設定なのか、今の担当者も分からない」「社長としては、法律上必要なくても休日勤務には多めに払いたい」といったことです。

規程だけを正確に読んで設定すると、逆に今までの給与より下がることすらあります。必要なのは文書を読む能力だけではなく、法律上どうなのか、会社はどうしたいのか、これまでどう運用してきたのかを整理することです。

AIは、知らない論点を必ず教えてくれるわけではない
■動くものができると、完成したように見える

生成AIの少し怖いところは、専門知識がなくても、かなり完成度の高い画面や計算結果が出てくることです。自分でコードを書いていた時代なら「ここが分からない」と途中で止まっていたところでも、AIはとりあえず形にしてくれます。だから、完成したように見えます。

しかし、生成AIは、知らないことを必ず教えてくれる道具ではありません。自分が知らない論点は、そもそも質問できないことがあります。

たとえば1日8時間超だけを意識していれば、週40時間超をどう扱うかを確認しないかもしれません。振替休日と代休を同じものだと思っていれば、その違いを前提にしたテストもしません。会社で「残業」と呼んでいる時間がすべて法定時間外労働だと思っていれば、法定内残業を分ける必要にも気付きません。法定休日を半日単位で与えられると思っていれば、その前提のままAIに作らせてしまいます。

AIとの会話が順調に進んでいることと、必要な論点を確認できていることは別です。

■モデル就業規則を全部入れれば安全、でもない

では、厚生労働省のモデル就業規則などを読み込ませ、制度を全部入れてしまえばよいのか。これも違います。

モデル就業規則は、法令上必要な最低限だけを並べたものではなく、各会社の事情に合わせて取捨選択し、修正して使うものです。制度を入れれば、会社はその制度を実際に運用することになります。申請を受ける。記録する。判断する。例外に対応する。社員に説明する。

規模の小さい会社に、管理体制に見合わない制度を全部入れても、規程と実態が離れるだけです。「法律に違反しない規程」と「その会社が無理なく運用できる規程」は同じではありません。勤怠システムも同じで、機能を増やすことより、どこまで持たせるかを決める方が難しいのです。

今は、専用システムを土台にする方が現実的
■AIが作ったものを、AIだけでは検証できない

AIにコードを書かせれば、計算式も作ってくれます。では、その結果が正しいかもAIに確認させればよいのか。ここには少し循環があります。

最初に渡した前提が間違っていれば、AIはその前提に沿ってきれいに計算します。週40時間の論点を人が入れていなければ、そのテスト自体が抜ける可能性があります。

当事務所でも、AIで作った業務ツールは、そのまま完成とは考えません。まず、人がすでに知っている論点から確認します。勤怠であれば、遅刻、早出、半休、中抜け、休日勤務、週40時間、深夜、振替休日など、結果が分かれるケースを意図的に入れて確かめることになります。

そのうえで、AIにも差異を探させる。AIに作らせた結果をそのまま使うのではなく、既知の論点から検証し、さらに差異をAIに探させる。この使い方の方が、現時点では実務に合っています。

■作るのは計算部分だけではない

勤怠システムというと、出退勤と残業計算の仕組みに見えます。実際には、それ以外にも、申請・承認、権限、履歴、勤務予定、休暇の残日数、データの保存、給与ソフトとの連携、法改正への対応などがあります。会社によっては、変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制なども必要です。

これらを全部自社で作ることは、AIがあれば技術的には以前よりずっと現実的になりました。ただ、作った後も維持し続ける必要があります。法律が変われば直す。会社の制度が変われば直す。給与計算が変われば直す。新しい例外が出ればテストする。

コードを書くコストはAIでかなり下がりました。一方、その変更が必要だと気付くための知識や管理までなくなったわけではありません。

■「全部自分で持たない」という選択

ここまで考えると、現時点ではKING OF TIMEなどの専用システムを土台にした方が現実的な会社が多いと思います。

専用システムなら正しい、という意味ではありません。設定を間違えれば、間違った結果を正確に出し続けます。会社の就業規則や実際の運用までシステムが自動で判断してくれるわけでもありません。それでも、法令に反する設定や運用にはアラートが出るなど、法律に沿った仕組みがあらかじめ組み込まれています。システムそのものを維持する部分は専用サービスに任せ、会社固有の設定に集中できる、という差は大きいです。

専用システムには、計算以外の強みもあります。たとえばKING OF TIMEには、社員本人が自分の勤怠を確認する機能があり、運用に組み込めば、後から労働時間や集計をめぐって争いになることを一定程度防ぐ効果も期待できます。

AIによって、この境目は今後かなり変わると思います。数年後には、小規模な会社ならAIで自社の勤怠管理を作ることが珍しくなくなっているかもしれません。ただ現時点では、「AIで作れる」ことと「専用システムが不要になった」ことは、まだ同じではありません。

AIは「作る」より、差異を調べるところですでにかなり使える
■新旧システムの違いをAIに探させる

一方で、勤怠管理にAIがすでに使いやすい場面もあります。勤怠システムを入れ替えるとき、新旧のシステムで同じ月を計算して比べますが、数字が違う社員を人が一人ずつ見ていくのは、社員数が多ければかなり大変です。

当事務所が勤怠システムの入れ替えを支援したある会社では、設定を終えた後、新旧のシステムを1か月並行して動かし、同じ月の打刻と残業時間を、社員ごと・日ごとにClaudeで突き合わせました。数分程度の打刻の差のように気にしなくてよい差は除き、残業の未計上や大きな時間の差に絞って洗い出させています。

テスト運用は、設定の確認だけでなく、本番の前に運用を整える機会でもあります。そこで、退勤の打刻漏れや、管理者が承認していない申請といった運用の問題もあえて除かずに拾わせ、本人が打刻を直すもの、管理者が承認するもの、新旧の集計の違いと、原因ごとに分けて一覧にさせました。新旧の集計の違いとして意味があったのは、中抜けして再び出社した日の時間を、旧システムの方が取りこぼしていたことです。

差を洗い出し、原因ごとに振り分けるところまではAIが速く、それぞれを設定で直すのか、社員への指導や承認の運用で直すのかを決めるのは、設定の中身を理解している人の役割です。これは、勤怠システムそのものを自作するより、現時点ですでに使いやすい方法です。

KING OF TIMEのようにマニュアルが大量にあるサービスでも、AIで必要な設定方法を探したり、会社向けの操作説明を整理したりする使い方ができます。

AIで作れるようになったからこそ、先に決めるものが見える
■システムの問題より、会社のルールの問題

AIを使えば、動くものを作るハードルはかなり下がりました。その結果、逆に見えやすくなったことがあります。勤怠管理で難しいのは、必ずしもシステムそのものではない、ということです。

何を残業とするのか。休日をどう扱うのか。何を給与に反映するのか。どこまで申請させるのか。会社として何を社員に保障したいのか。そこが決まっていなければ、AIでも専用システムでも、正しい設定は作れません。逆に、そこが整理されていれば、既存の勤怠システムでもAIでも、かなり使いやすくなります。

当事務所では、現時点では専用の勤怠システムを土台にしながら、設定の検証、差異の確認、マニュアルの検索などにAIを組み合わせています。今後AIの能力が上がれば、どこまで自作するかは変わるかもしれません。ただ、そのときも必要なのは、「AIに何を作らせるか」の前に、「この会社では何を正しいとするか」を決めることだと思います。

就業規則や労働時間制度の確認から、KING OF TIMEの勤怠設定、給与ソフトとの連携まで、一連の流れとして支援しています。顧問契約のない会社からのご依頼や、すでに使っている勤怠管理の見直しにも対応しています。サービス内容は「スポット支援業務」、料金は「料金プラン」をご覧ください。

※本記事は2026年7月時点の法令・公表資料および各サービスの公開情報をもとに整理しています。具体的な取扱いは、各社の就業規則、賃金規程、労働時間制度、労使協定、実際の運用によって異なります。

田治米 洋平
特定社会保険労務士 (全国社会保険労務士会連合会 登録番号13060418)
1980年大阪生まれ。同志社大学卒業。IT企業勤務を経て、2006年たじめ労働法務事務所を創業。2013年青山学院大学大学院修了。「ゲーム開発企業における専門業務型裁量労働制の法的問題と実務的課題」優秀賞受賞。2017年、社会保険労務士法人たじめ事務所へ組織変更、代表社員就任。
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