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社労士の仕事は、顧問先ごとの期限の管理、たびたび行われる法改正への対応、給与や手続きの正確さなど、漏れや誤りが許されない業務の積み重ねです。
当事務所が何より大切にしているのは、顧問先から聞かれる前に、必要なことを先回りしてご案内することです。そのためには、期限や法改正を確実に把握し、ご連絡には、できるだけ早く、根拠を確かめたうえでお返事できる状態を保たなければなりません。
それを担当者の記憶や努力だけに頼らずに続けられるよう、AIや自動化の仕組みを少しずつ業務に組み込んできました。この記事では、実際に動いている仕組みと、それを作る過程で分かったことをご紹介します。
現在、日常の業務で動いている主な仕組みは次のとおりです。
・毎日:顧問先の期限が、1か月前・前日・当日にSlackへ自動で届く
・毎週:前週の関連ニュース、予定、メールのやり取りを、AIがレポートにまとめる
・法改正のたびに:資料をAIで音声解説や図解、クイズに変換して理解する
・労務相談:回答の方針を、ClaudeとChatGPTの両方で検証してから返信する
・3か月ごと:業務量の偏りや課題を、AIで分析する
給与計算の二次チェックへのAIの組み込み、事務所のノウハウを持たせたAIによる就業規則の一次チェック、産休・育休の進み具合を顧問先が見られるアプリ、勤怠システムを入れ替えるときの新旧の差の確認にも取り組んでいます。
このほかにも、評価制度の整理や社内の研修計画など、さまざまな場面でAIを使っています。
取り組みはさまざまですが、AIを業務に組み込むときには、次の4つを原則にしています。
・AIに判断させず、人が確認できる範囲を広げるために使う
・事務所のノウハウを言語化してAIに持たせ、使うほど蓄積させる
・新しい使い方は、過去のデータで答え合わせをしてから本番に移す
・AIに渡す情報は最小限にし、PCやNASにAIを直接つながない
どの取り組みも、最初から完成していたわけではありません。以下では、それぞれをどう組み立て、どこでつまずいたかをご紹介します。
当事務所では、担当者が休んだり替わったりしたときに案件の状況が分からなくなるなど、業務がブラックボックスにならないよう、仕組みで共有することを進めてきました。顧問先とのやり取りはメールを中心とし、電話のように記録が残らないやり取りは最小限にしています。
そのメールはメールワイズで担当者ごとに振り分けて案件を共有・処理状況を可視化し、スケジュールはサイボウズ、ファイルは個人のPCに保管することを禁じてNASに集めフォルダの作成ルールを決めて管理するなど、業務ごとに合ったサービスを選んで効率化を進めてきました。どれもよくできたサービスで、長く使い続けてきたものです。
ただ、それぞれは整理されていても、情報は複数のサービスに分かれていました。横断的な検索や連携に手間がかかり、AIで複数の情報をまとめて活用することも難しい状態です。しかも、これらをまとめて置き換えられる一つのサービスは見当たりませんでした。サイボウズのように誰でも使いやすいことを重視したサービスは、当事務所が求める自動化や、他のサービスとの連携には物足りなくなってきていました。
そこで、いきなりすべてを置き換えるのではなく、他のサービスとの連携や自動化がしやすいGoogleのサービスを軸に、移せるものから移すことにしました。まずスケジュールをサイボウズからGoogleカレンダーへ移し、メールはGmailにも転送して、過去のやり取りをGemini(GoogleのAI)に質問できる形にしています。
一方で、すべてを移すことはできませんでした。メールワイズの担当振り分けはGoogleでは使い勝手よく再現できず、現在も併用しています。ファイルもGoogleドライブへの集約を検討しましたが、給与データなど機密性の高い情報を多く含むため、現時点では全面的な移行はしていません。
Googleのサービスも万能ではありません。機能が増えて分かりにくくなった部分もあれば、用途によってはAIの精度に物足りなさを感じる場面もあります。そのため、AIまですべてをGoogleに寄せるのではなく、Google Workspaceを予定やメールの土台にして、そこにClaudeやChatGPTを連携させて使う形にしています。たとえば週明けのレポートは、Claudeがカレンダーの予定やメールの内容を読み取ってまとめています。
36協定の更新、賞与の支給時期、年始の給与計算で使う月の所定労働時間の変更、各種届出など、顧問先ごとの期限はGoogleカレンダーに登録しています。最低賃金の改定のように、毎年必ずあるものの日付が決まっておらず、多くの顧問先に影響する事項も、「毎年8月頃に確認する」といった形で予定に入れています。
登録の書き方もルール化しているので、担当者が代わっても「この会社では毎年この時期に何をしているか」を検索して確認できます。社内の勤怠関係の作業も、同じ方法でスケジュール化しました。
登録しただけでは、見落としは防げません。そこでGoogle Apps Script(GAS。Googleのサービスを自動で動かすための簡単なプログラム)を使い、顧問先の予定を、1か月前、前日、当日にSlackへ通知する仕組みを作りました。1か月前の通知で準備に入り、前日と当日の通知で漏れがないかを確かめる三段構えです。
プログラムはエンジニアに頼まず、やりたいことを整理してClaudeに質問しながら、事務所内で書いています。
Claude Cowork(複数の情報やツールを使いながら、複数の手順にまたがる作業を進めるClaudeのデスクトップアプリ)で、毎週の週明けに、前週の労務に関連するニュース、その週の予定、メールのやり取りをまとめたレポートを作らせています。
代表がこのレポートを見て、担当者が対応に困っていそうな案件があれば、早めにフォローしています。対応そのものをAIに任せているわけではありません。
法改正や労務のニュースの確認には、代表だけでなく所員もそれぞれAIを使っています。法改正のたびに、条文、通達、Q&A、パンフレットと大量の資料が出ます。Gemini Notebook(旧NotebookLM。読み込ませた資料の範囲で回答や整理をするGoogleのAIツール)を使うと、資料を音声解説、動画解説、スライド、比較表、マインドマップ、インフォグラフィック、クイズなどに変換できます。たとえば令和6年改正の育児・介護休業法では、条文と厚生労働省のあらまし、規定例、Q&Aを読み込ませ、改正点を表やマインドマップで整理しました。
特に役立っているのが、音声解説を評論形式にする使い方です。普通に指示しても出てこなかった論点が出てくることがあります。また、「労働者への影響」「労働者から想定される質問」「実務上の限界」に絞った音声を作り、顧問先への説明を事前にシミュレーションすることもあります。
クイズ形式にすれば所内で理解度を確かめられ、スライドは顧問先向けの説明資料の下書きにもなります。ただし、生成された説明が正しいとは限らないため、最終的には必ず原典で確認しています。
労務相談のメールは、基本的に代表が対応しています。労務相談では、AIに回答文を書かせていません。まず自分で、事実関係、先方の意向、ポイント、対応の方向性を書き出します。それをAIに見せて、検討から漏れている論点や事実の取り違えがないかを確認させます。このとき一つのAIに頼らず、ClaudeとChatGPTの両方に確認させて、それぞれの指摘を突き合わせています。最後に、実務上不要な論点を外したうえで、返信は自分で書いています。
自分で書く理由は四つあります。AIに書かせると考え・学ぶ工程を手放してしまうこと。多少文章が整っていなくても、自分の言葉の方が相手に伝わること。出力されたメール文面案の検証作業が生じること。そして、近年の法改正が反映されていないなど、AIの誤りがまだ多いためです。
一方で、判断を重ねる立場になるほど、判断疲れが起きることもあります。自分が責任を持てる範囲で検討材料を出してもらい、背中を押してもらう。そういう使い方には助けられています。
実際に、小さなお子さんのいるパートタイマーの雇止めについて相談を受けた際、AIは「育児・介護休業法違反になる」と回答しました。根拠を確認すると、それは子の看護等休暇を取得したことを理由とする不利益取扱いの禁止で、相談内容にそのまま当てはまるものではありませんでした。
AIは条文の適用範囲を取り違えたまま、自信のある口調で結論を出すことがあります。結論が自分の考えと一致したときほど、根拠は原典で確認するようにしています。
2025年3月頃、全員が費用をかけて(少し高額な笑)AI研修を受講しました。当時はプロンプトの書き方が中心でしたが、その後AIの使い方は大きく変わり、社員の間で知識や操作の差も出てきました。そこで現在は、毎週のミーティングでAIの情報や活用例を持ち回りで発表しています。
全社共通の評価項目に、複数の項目にまたがる内容や重複があったため、AIを使って評価軸を整理しました。個人の目標では、測定できない、具体性がないといった目標を見直す際や、目標を言葉にするのが得意でない社員に、本人が実現できる目標の案を出す際の材料として使っています。当事務所はいつでもUdemyで研修動画を視聴できる環境ですが、社員ごとの課題に合わせて受講計画を立てました。
AIに評価させているのではなく、評価する側が考える材料を整理する使い方です。
3か月に一度、SlackとメールのやりとりをClaudeで分析し、社員一人ひとりの業務量や抱えている課題を整理しています。特定の人に業務が偏っていないか、どこで仕事が止まりやすいかを、本人の申告や上司の印象だけに頼らず把握するためです。
社員の記録を分析することになるため、何のために分析するのかは社員にも伝えたうえで行っています。
これから始める取り組みとして、毎日のSlackの日報に、その日にヒヤリとしたことや気付いたことを一言ずつ書き、AIに定期的にまとめさせる仕組みを始めています。
個人の経験で終わりがちな気付きを事務所のノウハウ集にし、給与計算や手続きのチェックリストに反映させるのが目的です。
社労士業務では、給与、傷病、家族の状況など、多くの個人情報を扱います。当事務所では、AIの利便性だけを理由に情報を入力することはせず、利用するサービスや情報の内容に応じて取扱いを判断しています。
メールや予定は、法人向けのGoogle Workspaceの契約のもとで扱っています。一方、給与データなどのファイルは、扱う情報の性質を考え、Googleドライブには置かない判断をしています。そのうえで、次のことを守っています。
・業務上不要な社名・氏名などの識別情報は、原則として削除する
・AIサービスの契約内容やデータの取扱いを確認して利用する
・個人情報や機密情報は、必要最小限の範囲で取り扱う
・AIが出した結果についても、人が内容と根拠を確認する
給与計算の二次チェック、就業規則のチェック、勤怠システムの設定にも、AIを組み込む取り組みを進めています。どれも、AIに法令を読ませるだけでは足りず、事務所で蓄積してきたチェックリストやノウハウをAIが使える形に整理し直すことが中心です。詳しくは、次の記事でご紹介しています。
・給与計算の二次チェックに生成AIはどこまで使えるのか
・就業規則のチェックに生成AIはどこまで使えるのか
・AIで勤怠システムは作れるのか――専用の勤怠システムはもう不要?
・勤怠システム設定で見落としやすいポイント――社労士が実務で確認する視点
・契約社員の契約期間・更新・雇止め――有期契約で見落としやすい確認の時期(有期契約の管理アプリ)
実際に使ってみて、AIは情報の検索、論点の整理、チェックの補助では大きな力になる一方、整理されていない業務や曖昧なルールの上では使いにくいことが分かりました。専門分野では、誤った回答を見抜く知識も欠かせません。
当事務所では、これまで整えてきた業務と情報管理の仕組みの上にAIを組み込み、人による判断と確認の精度を上げる道具として使っています。顧問先の労務管理や業務整理をご支援する際にも、必要に応じてこうしたAI活用の経験を生かしていきたいと考えています。ご相談はお問い合わせからお寄せください。
※本記事は2026年10月時点の取り組みです。AIツールは名称や機能の変化が速く、たとえばNotebookLMも2026年7月にGemini Notebookへ名称が変わりました。今後も、その時点で安全性と実用性のバランスが良い方法へ見直していきます。
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